Bayfm Traffic Updatesのコード進行を解説します。かなりマニアックで、理論的な説明になると思いますが、お許しください。
Traffic Updatesのコード進行は、以下16小節×2でワン・コーラスです。最後4小節のメロディーが1回目と2回目、多少違います。コード進行はまったく同じです。
Amaj7 | Amaj7 | Am7onD | Am7onD |
Amaj7 | Amaj7 | Am7onD | Am7onD |
Gmaj7 | Gm7onC | Fmaj7 | Fm7onBb |
Ebmaj7 | Ebm7onAb | Dbmaj7/C#m7onF# | Bmaj7/Bm7onE |
ハーモニック・リズム
まずは、コード全体の流れから見ていくことにしましょう。
前半8小節は、4小節の繰り返しです。9小節目から、1小節ごとにコードが変化します。最後2小節には、コードがふたつ入っています。コード側面から見ても、16小節目の切れ目に向かって、変化の度合いが次第に増すように作られています。
コードで盛り上げていく基本に、ハーモニック・リズムを増やすという考え方があります。簡単にいえば、コードの動きを増やし、1小節中のコード数を増やしていけば、その部分は必然的に盛り上がっていくということです。
コード・パターン
さて、問題のコード進行です。
アイデア自体は、スティービー・ワンダーが得意としているパターンから来ています。「My Cherie Amour」や、「Do I Do」といった曲にこのパターンが使われています。1度メジャー7thからベースが完全4度上がり、sus4的な響きに変わります。
ベースが完全4度上がるというパターンは、16小節全体を通して貫かれています。2→3、6→7、9→10、11→12、13→14小節、15小節と16節中のベース音の変化は、すべて完全4度上がっています。
ベース音が下降する個所を見てみましょう。8→9、10→11、12→13、14→15、15→16、16→1小節目は、すべて完全5度下がっています。sus4的なオンコードが、次につづくメジャー7thコードに対して、ドミナント的な役割を果たしていると考えることもできます。
調性
つづいて、調性について考えてみましょう。
この曲は、いったい何調でしょうか。あえていえば、Traffic UpdatesのキーはA、イ長調といえるかもしれません。しかし、中心はAですが、キーが変化をつづけていくように聴くことはできないでしょうか。
メジャー7thのコードを取り出してみましょう。
Amaj7、Gmaj7、Fmaj7、Eflatmaj7、Dflatmaj7、Bmaj7、16小節の間にわずか一瞬ですが、それぞれのキーを通過していきます。ベース音を並べて弾いてみましょう。全音階、ホール・トーン・スケールと呼ばれている音階になります。全音階は、オクターブを均等に6分割します。
6トニック・システム
それぞれの調性に重さの違いはありますが、Traffic Updatesには、6つの調性が混在しています。このような方式から生まれた楽曲を、6トニック・システムで作られた曲と呼んでいます。
天才サックス・プレーヤー、ジョン・コルトレーンが「ジャイアント・ステップス」という作品を残しています。「ジャイアント・ステップス」は3トニック・システムで作られています。
コードは、どのキーに落ち着くこともなく、3つのキーを見事に飛び回ります。6トニック・システムは、3トニック・システムを少し発展させたアイデアといえます。
Bayfm Traffic Updatesは、スティービー・ワンダーとジョン・コルトレーンのアイデアをもとに、筆者流のわずかなスパイスを足して生まれた曲といえるかもしれません。
バランス
イントロで予告したとおり、かなり専門的な解説になってしまいましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。頭が混乱してしまったらゴメンナサイ。
筆者自身、決して理論的な部分をいつも意識して作曲しているわけではありません。むしろ、本能的センスこそが作曲には一番大切だと考えています。しかし、本能的センスだけでも困ります。そこに、理論的センスがほんの少し加わるだけで、作品の完成度は間違いなく数段上がります。
なにごとも、バランスが大切ということでしょうか。